俳句ユネスコ
無形文化遺産
推進協議会

有馬朗人会長挨拶

俳句ユネスコ無形文化遺産登録推進協議会
会長 有馬朗人(国際俳句交流協会 会長)

年号が平成から令和へと替わり、平成29年春に発足した「俳句ユネスコ無形文化遺産登録推進協議会」は、3年目を迎えることとなりました。皆様には、当協議会の活動にご理解とご協力を賜りまして、誠にありがとうございます。

当協議会では、ユネスコ登録へ向けて、賛同者の拡大、関係機関への働きかけなど、活動を広げてまいりたいと考えております。変わらぬご支援をいただきますとともに、新たなご提案、取組みへのご協力等、お願いしたく存じます。

ユネスコ「無形文化遺産」とは

ユネスコ「無形文化遺産」とは

  1. 遺跡や建物などの不動産が対象の世界文化遺産と違って、無形文化遺産 は、人から人へと継承される芸能・祭礼・伝統工芸などが対象。… 2017.10.14放映のNHK「くらし☆解説」より(英訳:S.M.)
    (注)「 無形文化遺産」には、英日とも“World”(世界)が付かない点に注意を要する。
  2. 文化遺産とは、遺跡や建造物のようないわゆる有形の文化遺産のみを指 す概念ではありません。伝統的な音楽、舞踊、演劇、工芸技術といった無形の文化も、有形の文化遺産と同様にその国の歴史、文化、生活風習と密接に結びついた重要な文化遺産です。…英日とも、外務省の「無形文化遺産の保護に関する条約」についての解説より

通称「ユネスコ世界遺産」のカテゴリーについて

  1. 「世界遺産(有形)」リスト
    1. 「世界文化遺産」
      ・ 日本の登録16件(1993~2016)
    2. 「世界自然遺産」
      ・ 日本の登録4 件(1993~2011)
    3. 「世界複合遺産」
      ・ 日本の登録なし。
    4. 「負の遺産*」
      ・ 世界中で19件。日本では唯一「原爆ドーム」(広島平和記念碑)が登録されている。日本の登録16件に含まれている。
      * 仮訳。ユネスコの公式分類ではない。
    5. 「危機遺産」
  2. 「無形・可動遺産」リスト
    1. 「無形文化遺産*」
      * 今回「俳句」の登録を目指して活動が始まった「世界遺産」のリスト。日本の登録件数は下記。
    2. 「世界の記憶」
      世界で268件登録されているうち、日本が申請して登録されたのは6件。なお、中国が2015年に登録した「南京虐殺」は、日本側の抗議を受けてユネスコは調製中。また、中国は現在「慰安婦に関する資料」の登録も目指しているが、ユネスコは日本との協議が必要としている。
      (注) 当初は、Documentary Heritage(世界記憶遺産)と呼ばれていたが、現在は、Memory of the World(世界の記憶)に変更され、 “Heritage/遺産” がつかなくなった。

日本の「無形文化遺産」(外務省資料より)日本の登録22件(2008~2014)

  • [2008]
    • 能楽
    • 人形浄瑠璃文楽
    • 歌舞伎
  • [2009]
    • 雅楽
    • 小千谷縮・越後上布
    • 石州半紙*
      * 2014年に「和紙:日本の手漉和紙技術」として拡張記載された。
    • 日立風流物(茨城)
    • 京都祇園祭の山鉾行事(京都)
    • 甑島のトシドン(鹿児島)
    • 奥能登のあえのこと(石川)
    • 早池峰神楽(岩手)
    • 秋保の田植踊(宮城)
    • チャッキラコ(神奈川)
    • 大日堂舞楽(秋田)
    • 題目立(奈良)
    • アイヌ古式舞踊(北海道)
  • [2010]
    • 組踊
    • 結城紬
  • [2011]
    • 壬生の花田植(広島)
    • 佐陀神能(島根)
  • [2012]
    • 那智の田楽(和歌山)
  • [2013]
    • 和食;日本人の伝統的な食文化-正月を例として-
  • [2014]
    • 和紙:日本の手漉和紙技術
      (注) 2009年登録の石州半紙が2014年に「◎和紙:日本の手漉和紙技術」として拡張登録されているため,日本全体の登録件数は22件。

(2017.7.1現在。文責:HIA会員・松本彰二)

NHK番組「俳句を世界無形文化遺産に」

名越 章浩 解説委員

NHK番組「俳句を世界無形文化遺産に」

国連教育科学文化機関=ユネスコの無形文化遺産に俳句を登録しようと、活動を進める協議会が、先月(4月)発足しました。
名越章浩解説委員が解説します。

ユネスコの無形文化遺産とは

遺跡や建物などの不動産が対象の世界文化遺産と違って、無形文化遺産は、人から人へと継承される芸能や祭り、伝統工芸などが対象です。

例えば、すでに登録されている歌舞伎や、文楽、能楽などが、その典型的なものです。
去年は、山車が登場する全国33の祭り「山・鉾・屋台行事」が登録され、話題となりました。

俳句の登録を目指す推進協議会が発足

そして先月、新たに俳句の登録を目指す推進協議会が発足しました。

協議会には、松尾芭蕉のふるさととして知られる三重県伊賀市をはじめ、正岡子規のふるさとの松山市など、俳句にゆかりのある全国の自治体と、国際俳句交流協会など、4つの俳人の団体が参加しています。
署名活動などを行って、PRしていくということです。

なぜ無形文化遺産を目指すの?

では、どうして、無形文化遺産を目指そうということになったのでしょうか。それは、俳句のもつ特徴が世界に通じると協議会は考えたからです。

俳句は、五七五の17文字の短い詩です。
つまり、親しみやすく身近な文芸なので、誰でも参加できると、協議会は主張しています。
そして、季語が入っています。
例えば「蛙」は春の季語、柿は秋の季語です。
つまり、自然と協調する文芸である。そして俳句の自然を愛好する心が地球温暖化などの環境問題に対しても役立つのではないか、としています。

世界で俳句は?

世界の俳句への理解はどうでしょうか。

外国にも俳句の愛好者はいて、西洋では「HAIKU」、中国では「漢俳」という名前で呼ばれ、一部では親しまれています。
しかし協議会に参加する俳人の団体の中でも、海外への理解については意見が微妙に違っています。
すでに世界に俳句の愛好者がいるので十分通用するという意見がある一方で、そもそも外国語だと、五七五の形ではなくなりますし、「他の言語に訳すと、日本語のニュアンスが伝わらない」といった意見もあります。

日本語ならではの魅力も

確かに日本語ならではの言い回しがあります。
例えば、こちらの俳句。
「むまさうな 雪がふうはり ふはりかな」(小林一茶)

なんとも優しい雪が舞い降りてくる様を、一茶は「ふうはり ふはり」と表現しています。
これは、日本語であっても「ふわり ふわり」ではダメで、「ふうはり ふはり」だからこそ、伝わってくる言い回しで、外国語で直訳すると味気ないものになってしまいそうです。
しかも、その雪を見て貧しい農家の出身の一茶は「むまさうな」(美味そうな)と付けていて、これがあるから、私たちはイマジネーションを膨らませて、甘くておいしそうな雪が、ゆっくり、ゆっくりと、空から降ってくる情景が頭に浮かんでくるわけです。
俳句は、その一瞬を切り取り言葉で表現していますが、同時に過去やその背景まで、聴いた人に連想させることができる文芸です。
これをニュアンス通りに伝えるのはかなりの難題だと思います。

登録に向けた課題はほかにも・・・

さらに他にも課題があります。
そもそも無形文化遺産への提案は、国指定の文化財であることが現時点では原則なのですが、俳句は文化財にはなっていません。

ただ、文化財指定を受けていない和食が例外的に登録された実績もあり、俳句はその和食をモデルにしようとしています。果たしてうまくいくかどうか、今後、専門家による調査や研究が必要になってきますし、国の後押しも欠かせません。
このため、今の段階では登録への道のりはかなり険しく、時間もかかると思います

俳句の価値を見直す活動には大きな意義がある

ただ、私は、俳句の価値を見直す活動そのものには、別の大きな意義があると考えています。
現代社会で忘れがちな、自然の草木や神羅万象に目を向ける行為そのものや、それを言葉にする力を取り戻してくれると思うからです。

忙しい現代社会では、ゆっくり空を眺める機会すら滅多にありませんし、スマホの普及により指先一つでメールやSNSを利用してコミュニケーションがとれる時代です。例えば、メールを打っているときに、平仮名で「はな」と入力すると、「花」「鼻」のほか、「話しましょう」など、人工知能が次の文章の選択肢を自動で提示してくれます。
感情表現には、絵文字を使うこともあります。
その便利さはとても有難いことで、その便利さを否定しませんが、一方で、この便利さに慣れすぎてしまうと、見たもの、感じたものをどう表現するか、自分でじっくり考えるという行為が疎かになってしまいます。
俳句を無形文化遺産にしようという活動は、私たちが本来はぐくんできた想像力を、改めて見直す1つの機会になると思うのです。

海外にも通じる「想像力」の重要性

この重要性の認識は、外国の人にも理解してもらえる、共通する話だと思います。
実際、ベルギーの首相やEU大統領を歴任し、自分で俳句の句集も出しているヘルマン・ファンロンパイさんも、共感する1人です。
ことしの1月に、ファンロンパイさんが奈良県を訪れた際にも俳句を詠みました。

「雪の奈良 美は良し悪しを 隠しけり」

真っ白な雪が、まるで善も悪も無い1つの世界を作り出している様を表していると思います。
ファンロンパイさんは、この句を作った翌日、次のようにコメントしています。
「私たちは世界の調和を夢見ています。自然の美や身のまわりの調和をうたう俳句という文芸は、私たちが夢を見る助けになるのです」

世界の調和という夢を込めた俳句。俳句を聴く人のイマジネーションを膨らませる句だと思います。
自然と向き合い、様々なことをじっくりと考えるとき、心を外に開いて、いろんなものを受け入れる、受容する心が必要です。
ファンロンパイさんは、その俳句を作る精神が、ひいては差別や偏見などのマイナスな感情さえも抑えてくれると考えていて、「マイナスな感情の解毒剤になる」とも語っています。
気ぜわしい現代社会を生きる私たちは、ついつい気持ちに余裕がなくなってしまうこともあるように思います。
空に浮かぶ雲をじっと眺めたり、花に止まった虫の動きを観察したりするなど、心を静かにして、じっくりと言葉を紡ぐ時間が、今の時代だからこそ必要なのではないでしょうか。

(名越 章浩 解説委員)

参考「NHK解説委員室 くらし☆解説 5月24日」

日本欧州俳句友好大使
支援スピーチ

ファンロンパイ日本欧州俳句交流大使

私は日本に来るたびに賞を頂いているようです。2013年は、松山名誉市民の称号を、2015年には「日EU俳句交流友好大使」を任命して頂きました。また、昨年は一年を通して「日ベルギー150周年友好大使」を務めました。そして今回はアジア・コスモポリタン賞を頂き、奈良を訪問してきました。

有馬先生を先頭に、俳句界の皆さまがユネスコ無形文化遺産登録に向けて努力をされています。ベルギービールも文化遺産に登録されているのですから、俳句が登録されない訳はありません。おまけに私の住まいは、ユネスコ本部のパリの近くにあります。私も「日EU俳句交流大使」として出来るだけの協力をしたいと思っています。

俳句を通してグローバル化することには、二つの大事な局面があると思います。今ほど手軽に情報交換そして文化交流が出来る時代はありません。我々は一人ひとり違ったアイデンティティを持っています。オープンな心があれば、過剰なナショナリズムに陥ったり、他者を認めないといった事態に陥ったりすることはないでしょう。先ほどブドラ大使は、今年からEUが強く打ち出していこうと決めた政策、すなわち文化外交を前面に打ち出すことのお話をされました。これはとても大事なことだと思います。それぞれの文化の優れた点を認め合うことで、お互いの国や民族に敬意を持つことができるようになるのです。俳句はその文化外交に最適なものだと思います。二つ目は、世界には三つの美意識が必要だということです。有名なロシアのドストエフスキーは、かつて美が世界を救うだろうと言いました。それは真善美の合体であると思います。俳句はそれを実現する形式になりうるのです。俳句は偽りの感性ではなく、真実の経験を詠みます。俳句詩人に不誠実な人はいません。悪人にもなれません。なぜなら、彼は自然を見て、自然の美や本質を、自然の秩序を見て詩を作っているからです。

私たちは世界の調和を夢見ています。自然の美しさや自分を取り巻く様々なものが、シンフォニーを奏でるように美しく調和することを夢見ています。そして、調和を夢見ることは、差別や偏見などのマイナスな感情の解毒剤になるのです。自然の美や身の回りの調和を詠う俳句という文芸は、私たちが夢を見る助けになるのです。きっとこれからも俳句の果たす役割は増していくことでしょう。ここに昨日、奈良で即興の句会の時に詠んだ句を紹介します。

雪の奈良 美は良し悪しを 隠しけり

Nara in the snow
Beauty is falling down
It covers right and wrong

梅