俳句ユネスコ無形文化遺産登録推進協議会

ユネスコに登録する意義

なぜ無形文化遺産を目指すの?

俳句のもつ特徴は世界に通じる、と当協議会は考えています。

俳句は、五・七・五の17文字の短い詩です。親しみやすく身近な文芸なので、誰でも参加できます。

そして、季語が入っています。例えば「蛙」は春の季語、「柿」は秋の季語です。

このように、俳句は自然と協調する文芸です。そして、俳句の自然を愛好する心が地球温暖化などの環境問題に対しても役立つのではないか、と考えています。

俳句の価値を見直す活動には大きな意義がある

俳句には、現代社会で忘れがちな自然の草木や神羅万象に目を向ける行為そのものや、それを言葉にする力を取り戻す効果があると考えています。

忙しい現代社会では、ゆっくり空を眺める機会すら滅多にありませんし、スマホの普及により指先一つでメールやSNSを利用してコミュニケーションがとれる時代です。例えば、メールを打っているときに、平仮名で「はな」と入力すると、「花」「鼻」のほか、「話しましょう」など、人工知能が次の文章の選択肢を自動で提示してくれます。また、感情表現には、絵文字を使うこともあります。

その便利さはとても有難いことで、その便利さを否定しませんが、一方で、この便利さに慣れすぎてしまうと、見たもの、感じたものをどう表現するか、自分でじっくり考えるという行為が疎かになってしまいます。

俳句を無形文化遺産にしようという活動は、私たちが本来はぐくんできた想像力を、改めて見直す1つの機会になると思うのです。

海外にも通じる「想像力」の重要性

この重要性の認識は、外国の人にも理解してもらえる、共通する話だと思います。
実際、ベルギーの首相やEU大統領を歴任し、自分で俳句の句集も出しているヘルマン・ファンロンパイさんも、共感する1人です。
2017年1月に、ファンロンパイさんが奈良県を訪れた際にも俳句を詠みました。

「雪の奈良 美は良し悪しを 隠しけり」

真っ白な雪が、まるで善も悪も無い1つの世界を作り出している様を表していると思います。
ファンロンパイさんはこの句を作った翌日に、次のようにコメントしています。
「私たちは世界の調和を夢見ています。自然の美や身のまわりの調和をうたう俳句という文芸は、私たちが夢を見る助けになるのです」

世界の調和という夢を込めた俳句。俳句を聴く人のイマジネーションを膨らませる句だと思います。
自然と向き合い、様々なことをじっくりと考えるとき、心を外に開いて、いろんなものを受け入れる、受容する心が必要です。
ファンロンパイさんは、その俳句を作る精神が、ひいては差別や偏見などのマイナスな感情さえも抑えてくれると考えていて、「マイナスな感情の解毒剤になる」とも語っています。
気ぜわしい現代社会を生きる私たちは、ついつい気持ちに余裕がなくなってしまうこともあるように思います。
空に浮かぶ雲をじっと眺めたり、花に止まった虫の動きを観察したりするなど、心を静かにして、じっくりと言葉を紡ぐ時間が、今の時代だからこそ必要なのではないでしょうか。


参考:「NHK解説委員室 くらし☆解説 5月24日」名越 章浩(NHK解説委員)