俳句ユネスコ無形文化遺産登録推進協議会

各自治体首長のエッセイ

#14:『大田原市と松尾芭蕉』

栃木県大田原市長 津久井富雄
(会員誌「HI」No.145掲載)

大田原市は、栃木県の北東部に位置し、東側の市境は茨城・福島両県と接しています。市の東側には茨城県との県境に沿うように八溝山地が南北に延び、中央から西側にかけては、那珂川と箒川に挟まれた那須野が原扇状地の扇端付近にあたる平地が広がっています。人口は73,000人余で、県北地域の政治経済の中心的役割を担っています。

本市南部の湯津上地区には、上侍塚古墳・下侍塚古墳(共に国指定史跡)をはじめとする多くの古墳や那須国造碑(国宝)などが存在し、東部の黒羽地区は黒羽藩主大関家が本拠とした黒羽城を中心に発展し、西部の市の中心市街地は大田原藩主大田原家の本拠・大田原城の城下町および奥州道中の宿場町として繁栄してきました。

俳聖松尾芭蕉は『おくのほそ道』の旅において、元禄2年4月3日(1689年5月21日)から4月16日(同6月3日)まで、この旅の中の最長となる13泊14日の期間を黒羽の地に逗留しました。これを踏まえ「芭蕉の里くろばね」をキャッチフレーズとしたまちづくりに取り組み、平成元(1989)年度から「黒羽芭蕉の里全国俳句大会」を毎年開催し、あわせて市内の小中学生を対象とした「子ども俳句大会」も継続して実施しています。近年は、市内の俳句愛好団体の方々による「俳句の学校出前講座」の需要も増え、黒羽芭蕉の里全国俳句大会では小学生による英語俳句も披露されています。

平成元年に開館した「大田原市黒羽芭蕉の館(当初は黒羽町芭蕉の館)」には、黒羽藩主大関家伝来史料等の展示室とともに、芭蕉の『おくのほそ道』の概要と元禄2 年の旅の行程を示し、芭蕉を描き、象った画像や彫刻作品などを常設展示する芭蕉展示室があります。令和元(2019)年度には企画展「開館30周年記念 下野路を往く松尾芭蕉」を開催するなど、芭蕉や『おくのほそ道』をテーマにした企画展も開催しています。また、年間を通じて講座「近世の版本で読む『おくのほそ道』」を継続して開催しています。

平成30(2018)年度に展開した栃木デスティネーションキャンペーンでは、芭蕉が訪ねた雲巌寺などにスポットが当たるなどして、多くの観光客でにぎわいを見せました。本市としては、今後とも芭蕉と『おくのほそ道』を通じて俳句の魅力を発信し続けていく所存ですが、貴協議会におかれましても、俳句という素晴らしい日本文化の魅力を広く世界に発信し続けていただきますようご期待申し上げます。