俳句ユネスコ無形文化遺産登録推進協議会

各自治体首長のエッセイ

#10:過去から未来へ

岩手県平泉町長 青木幸保
(会員誌「HI」No.141掲載)

平泉町は、岩手県南部に位置し、北上盆地を挟んで、東に束稲山を主峰とする500m級の連山、西に奥羽山脈から張り出す標高200m内外の平泉丘陵が広がり、盆地中央を北上川が南流する風光明媚な町です。

11世紀末から12世紀の平安時代にかけて、東北の中心として栄華を誇った奥州藤原氏の拠点となった平泉には、今でも藤原氏が思い描いた争いのない平和な世界(浄土)をこの世に表そうとした寺院や史跡が多く残っています。また、その歴史に関するイベントも多く、中でも、毎年5 月に開催される春の藤原まつりでは、源義経公が藤原秀衡の出迎えを受けた際の情景を再現する「東下り行列」などが行われ、多くの観光客が訪れます。

平成23年6 月に「中尊寺」、「毛越寺」、「観自在王院跡」、「無量光院跡」、「金鶏山」の5 資産が世界遺産に登録されました。これに伴い、岩手県では平成26年に「平泉世界遺産の日条例」を制定するなど、町民だけではなく、県民をはじめ国内外の人々が広く理解を深め、適切な保存を行うことにより将来の世代に継承していくことを目的に文化遺産を活用した教育プログラムの実施や観光振興など、様々な取り組みを進めております。

そんな歴史と文化のまちである平泉は、古くから多くの紀行家が訪れたことでも知られています。歌人西行法師が訪れた際には、当時の束稲山一面に咲く桜を見て、桜の名称である吉野(奈良県)にも見劣りしないという歌を残しています。現在では、往時の桜山を復活させようと、植栽などの整備を行っております。さらに、西行の足跡を辿って旅に出た俳聖松尾芭蕉もこの地を訪れ、紀行文『おくのほそ道』で、「夏草や兵どもが夢の跡」、「五月雨の降り残してや光堂」といった藤原氏を偲ぶ歌を詠んでおり、その句碑が中尊寺と毛越寺に建てられています。

今では、芭蕉が訪れた日にちなんで、毎年6 月29日に「平泉芭蕉祭全国俳句大会」を開催し、一般の方々や県内の小中学生など、幅広く多くの方々が俳句に親しみ、楽しんでいただけるような機会と場の提供に努めております。

協議会の活動を通じて、『おくのほそ道』や俳句といった伝統ある文学が世界に広く発信されることで、日本文化への理解が深まり、未来へ継承されるものとなることを期待しております。