#2:「俳句」をユネスコ無形文化遺産に
岐阜県大垣市長 小川敏
(会員誌「HI」No.132掲載)
大垣市は、日本列島のほぼ中央に位置し、古くから中山道など主要街道が通る交通の要衝として、東西の経済・文化の交流点として栄えてきた岐阜県西濃地域の城下町です。また、揖斐川水系の自噴地帯にあり、良質で豊富な地下水に恵まれ、古くから「水の都」と呼ばれてきました。現在も市内各所に自噴井があり、水と緑があふれています。
本市は江戸時代の俳人・松尾芭蕉と縁が深く、元禄2 年(1689)の秋、芭蕉が「蛤のふたみにわかれ行秋ぞ」と詠み、江戸深川から始まった、『奥の細道』のむすびの地としても知られています。芭蕉はその生涯で4 回大垣を訪れており、『奥の細道』の旅においては、芭蕉が門人に宛てた手紙によれば、旅立つ前から終着点は「大垣」と決めていた様子が伺えます。
芭蕉がはじめて大垣を訪れたのは、貞享元年(1684)『野ざらし紀行』の旅の途中です。その目的は、大垣の船問屋主人で、俳諧を北村季吟に師事し、芭蕉と同門であった谷木因を訪ねることでした。このとき芭蕉は木因宅に1 か月ほど滞在し、木因の仲立ちで、大垣の俳人たちが新たな門人となりました。芭蕉が大垣を『奥の細道』のむすびの地とした背景には、早くから自分の俳風を受け入れた、親しい友人や門人たちの存在があったのではないでしょうか。
こうした歴史を背景に、本市には今なお俳句文化が色濃く息づいており、現在においても様々な形で俳句に親しむ機会が設けられています。
市内40か所に投句ポストを設置し、市民が気軽に俳句を発表できる「16万市民投句」、初心者向けの俳句教室である「三尺俳句教室」や「こども俳句教室」、全国から多くの投句を集め今年で29回目の開催となる「芭蕉蛤塚忌全国俳句大会」など、初心者から上級者まで、俳句関係者や団体等のご協力をいただきながら、広く俳句に親しめる事業を展開しています。また、俳句の新しい楽しみ方を発信する「東西俳句相撲」では、東京都荒川区からの参加者もお招きして、大いに大会を盛り上げていただいております。
「俳句」は大垣市民の郷土文化と言っても過言ではなく、この文化を今後も大切に受け継いでいくために、本市では平成27年度から市内小中学校において「ふるさと大垣科」をスタートさせ、郷土の歴史文化を学ぶ中で、「俳句」の授業も行っております。「俳句」の授業においては、地元の俳句協会のご協力をいただくなど、市民と一体となり、俳句振興に取り組んでいます。小学校1 年生から中学校3 年生まで毎年「俳句」に親しむことで、質、量ともに俳句大会への投句が充実するという効果も少しずつ出始めております。
また、平成24年に整備した「奥の細道むすびの地記念館」では、芭蕉や『奥の細道』を紹介しており、開館後は、天皇・皇后両陛下の行幸啓をはじめ、市民はもとより、市外・県外からも俳句愛好者等多くの観光客にもご来館いただいております。記念館を拠点として、『奥の細道』とゆかりのある地域との交流も行っており、開館6年目の今年9月に入館者130万人を達成したところでございます。
これまでの歴史文化を生かしたまちづくりは、平成24年の文化庁長官表彰(文化芸術創造都市部門)に結実され、さらに平成26年3 月には「おくのほそ道の風景地 大垣船町川湊」として国の名勝指定を受けるに至りました。
そうした中、本年4 月に「俳句のユネスコ無形文化遺産登録推進協議会」が設立され、「俳句」を広く世界に発信する準備が進められています。協議会の理事として、ユネスコの無形文化遺産の登録に向けた活動に参加し、「俳句」を大いにアピールしていきたいと思っております。
「俳句」は年齢や地域に縛られることなく、各々が自由に楽しめる素晴らしい文化です。「俳句」がユネスコ無形文化遺産に登録されることは、俳句文化の盛り上がりや俳句を親しむ人々への大きな追い風となることでしょう。また、日本の慣習や知識が世界に向けて発信されるきっかけにもなると思います。これからも皆様と心をひとつにして、俳句を世界に広げる活動に積極的に取り組んでまいりたいと存じます。