俳句ユネスコ無形文化遺産登録推進協議会

各自治体首長のエッセイ

#1:俳句文化を世界に広げる活動の一翼を担います

東京都荒川区長 西川太一郎
(会員誌「HI」No.131掲載)

「俳句は永遠を瞬間に閉じ込める文学」。これは小説家、美術評論家、詩人、政治家として活躍したフランスの元文化大臣アンドレ・マルローの言葉です。世界で最も短い定型詩といわれる俳句の「五・七・五」17文字で、私たちは四季を愛で、思いを伝え、新しいものを創りだすことができます。そして、俳句という無限に広がる世界の中で、私たちは国内外の多くの人たちと心を結ぶことができます。

荒川区は、松尾芭蕉「奥の細道矢立て初めの地」であり、小林一茶、正岡子規や種田山頭火が俳句を詠むなど多くの俳人にゆかりのある街です。荒川区では平成27年3 月、俳句の魅力を次代につなぐ架け橋として、子どもから大人まで俳句文化のすそ野を広げ、豊かな心を未来に伝えていくことを誓い、「俳句のまち あらかわ」を宣言いたしました。

区内南千住にある素盞雄神社には、文政3 (1820)年に建てられた奥の細道矢立初めの句「行春や鳥啼魚の目は泪」を刻む句碑があり、毎年、区内の小学生が俳句を競い合う俳句相撲大会を開催しています。この大会には、結びの地である岐阜県大垣市の小学生も参加し、芭蕉翁の結んでくれた御縁で交流が続いています。加えて区内の図書館等の投句箱には、多くの区民からの珠玉の一句が集まるなど、あらゆる世代の方が気軽に参加できる投句イベントや吟行会なども盛んです。更に、地域の方々が中心となった「奥の細道矢立初めの地全国俳句大会」や「一茶・山頭火俳句大会」なども行われています。

また昨年は、国内にとどまらず世界中に多くの愛好者のいる俳句文化を世界に向けて発信していきたいと考え、国際俳句交流協会会長の有馬朗人先生に御助言をいただき、英語俳句の取組として、英語の俳句手帳を作成し、中学生向けの英語俳句教室や吟行会を行いました。有馬朗人先生には、荒川区の国際俳句振興会議の委員への御就任をはじめ、区における俳句文化振興に多大な御尽力をいただいており、この場をお借りして感謝の意を表したいと存じます。

さて、このような取組がきっかけとなり、本年1 月には、前EU大統領で日EU俳句交流大使であるファン・ロンパイ氏が荒川区を訪問されました。矢立て初めの句碑や南千住駅前の松尾芭蕉像などを御視察され、素盞雄神社では、英語で詠まれた俳句を納められました。区の様々な俳句振興の取組にも大きな関心を示され、力強いエールもいただき、これまで以上に俳句文化振興を進めてまいりたいと意を強くした次第です。

そして、本年3 月26日、60万冊の蔵書を誇る「中央図書館」、区出身の作家・吉村昭氏の「記念文学館」、「子ども広場」がひとつになった施設、「ゆいの森あらかわ」を開館いたしました。この、荒川区の新たなランドマークとも言える「ゆいの森あらかわ」には、約1万5千冊の国内外の俳句資料も所蔵し、講演会や句会など俳句文化振興に資する事業も多数展開していく予定です。

このように、荒川区では、俳句の素晴らしさをまちづくりに活かすとともに世界へ発信していきたいと考えています。去る4月24日、俳句のユネスコ無形文化遺産登録推進協議会の設立総会が荒川区の日暮里で開催され、登録を目指す第一歩を踏み出すことができたことは大変光栄であり、喜ばしいことです。私も、皆様と心を一つにして、協議会副会長として俳句文化を世界に広げる活動に参加し、取り組んでまいります。