#3:「俳句」が世界を、未来を変える
愛媛県松山市長 野志克仁
(会員誌「HI」No.133掲載)
愛媛県松山市は、正岡子規や高浜虚子など、日本を代表する俳人を多く輩出し、夏目漱石の『坊っちやん』や司馬遼太郎の『坂の上の雲』などの小説の舞台になるなど、文化的土壌の豊かなまちです。中でも、俳句は江戸時代から松山藩主が俳諧をたしなみ、小林一茶も訪れて句作するなど、古くから松山に根付いた文芸です。明治時代には、正岡子規が現在の意味で使われている「俳句」ということばを創始し、俳句革新運動を推し進め、今では多くの市民に親しまれています。
これら先人たちの築いてきた俳句文化を継承し、発展させるため、本市は様々な取組を行ってきました。1968年に第1 号を設置した「俳句ポスト」は松山市内はもちろん、現在は県外や海外も含め109ヵ所に広がり、1981年に開館した松山市立子規記念博物館は、65,000点を超える資料を収蔵、年間10万人以上の来館者を迎えています。また「子規顕彰全国俳句大会」「子規顕彰松山市小中高校生俳句大会」「松山市民俳句大会」はどれも50回以上の歴史を重ねてきました。
さらに、俳句甲子園をはじめ瀬戸内・松山国際写真俳句コンテストやインターネットの俳句投稿サイト「俳句ポスト365」などの新しい取組が次々と生み出されました。また、海外からはヘルマン・ファン・ロンパイ前EU大統領やラーシュ・ヴァリエ前駐日スウェーデン大使などの俳句愛好家の方々に御来訪いただいたほか、松山市と友好交流協定を結んでいる台北市で俳句イベントを開催するなど、俳句を通した国際交流も行っています。平成30年2月には、松山市の特別名誉市民であるファン・ロンパイ氏にも参加いただき、「International Photo-Haiku Festival(国際写真俳句コンテスト)」のシンポジウムが開かれます。
このように、官民が一体になって俳句への造詣を深め、本市では平成26年8 月に「俳都松山宣言」を発表しました。これは、俳句に親しみ、俳句を楽しみ、俳句を愛するまちとしての誇りと、俳句の可能性を広めゆく俳都としての意識を新たにし、俳句を楽しみ尽くす好奇心をエネルギーとした正岡子規の革新精神を受け継ぎ、世界へ向かって、そして100年後の未来へ向かって、俳句の風を絶やさず起こし続ける決意を宣言したものです。
現在、松山市では子規・漱石生誕150年の記念事業を実施しています。子規と漱石は学生時代からの親友で、松山で52日間、共に暮らしたことがあります。小説家のイメージが強い漱石ですが、それ以前に松山に英語教師として赴任し、この時に子規から熱心に俳句を学びました。あまり知られていませんが、漱石は小説家としてよりも早く子規派の俳人として日本の文壇にデビューしたのです。記念事業を通して、二人の足跡と功績を松山で体感していただきたいと思っています。2017年、正岡子規の生誕150年の記念の年に、俳句のユネスコ無形文化遺産登録推進協議会が設立されたことに、御縁を感じています。関係する皆様と共に日本の文学を代表する「俳句」を世界へ広め、未来へつなげられるよう、理事として取り組んでまいります。