世界中で親しまれるHAIKU
HAIKUは日本に発祥したものですが、今や世界中に広がり、多くの人に愛好され、さらには尊敬されている文化だと言えます。もちろん、世界中にはHAIKU以外にも各地域に根付いたたくさんの詩型があり、比較的短い詩型も少なくありません。しかし、そのような詩の多くは独特のルールに則って韻を踏む必要があるなど、やや取っ付きにくい形式のものもあります。
その一方で、HAIKUの特徴は、ハッとなる認識の瞬間を短い言葉で捉えるところにあります。季語と五七五を中心とする型が、歴史的な基本形でしたが、無季や自由律を含むさまざまな形で国内外に広まり、いまや二百近い国・地域で、二百近い言語で作られています。世界に存在する他の詩型に比べて、HAIKUは世界の誰にでも親しみやすい詩型だからなのでしょう。
そのような詩型であるHAIKUは、詩の門戸を多くの人に開かれたものにしています。さらに、HAIKUという詩型は、身の回りのものごとをじっくりと観察し、感じ、味わい、自分で考える、という行為を強く促します。その結果、HAIKUは多くの人たちが本来人間として持っている想像力をさらに豊かにすることに貢献していると言えるのではないでしょうか。
そのような誰にでも親しめる取っ付きやすさを持つ半面で、HAIKUの根底には、日本の文化の中で培われたユニークな詩的感性も凝縮されています。そのエッセンスを世界に正しく伝えていくことも大切なことです。
想像力、環境意識、そして調和と協調
人間の想像力は大きな力を持っています。身近なものから壮大なものまで、自然や森羅万象のあらゆるものを見て感じたことが、俳句ではきわめて短い言葉に凝縮して表現されます。そこに見られる生き生きとした想像力は、俳諧とも呼ばれた古典俳句から現代の俳句、ひいては海外俳句まで、すべてに共通しています。五七五と季語を使った俳句も、あるいはそうでない俳句も、さらには日本語以外の言語による俳句も、この想像力という点においては普遍的な価値を共有しているのです。
そしてHAIKUが世界に貢献しうるものは、豊かな想像力だけではないかもしれません。俳句には、現代社会で忘れがちな自然の草木や森羅万象に目を向ける行為と、そしてそれを言葉にする力を取り戻す効果があると言えます。そのことは大きな視点で言えば、気候変動という大きな地球的課題に直面する私たちに、自然環境へのより細やかな配慮の意識を育むことにもつながりそうです。
さらに言えば、そのように身の回りのものに細やかな目を向ける俳句は、周囲の存在への調和と協調を常に大切にしますから、そのような小さな意識が積み重なることで、よりお互いを尊重しあう調和した世界を作り出すことにHAIKUは貢献できるとも言えるのではないでしょうか。
HAIKUで世界平和を夢見る
このことは、HAIKUを通じて世界の多くの人が共感できることかもしれません。
実際、ベルギーの首相やEU大統領を歴任し、自身で俳句の句集も出しているヘルマン・ファンロンパイさんも、そのように共感する一人です。2017年1月に、ファンロンパイさんが奈良県を訪れた際にもHAIKUを詠みました。
「雪の奈良美は良し悪しを隠しけり」
真っ白な雪が、善と悪といった対立のない一つの世界を作り出しているさまを表すかのようです。ファンロンパイさんはこの句を作った翌日に、次のように語りました。
「私たちは世界の調和を夢見ています。自然の美や身のまわりの調和をうたう俳句という文芸は、私たちがそのような夢を見る助けになるのです」
また、ファンロンパイさんは、HAIKUを作る精神が、差別や偏見などのマイナスな感情さえも抑えてくれると感じ、「負の感情の解毒剤になる」とも語ります。
世界にHAIKUが広がることで、人々が悪い感情を捨て、人間同士の間でも、自然環境との間でも、調和や協調を尊重する意識が高まります。そんなことが少しずつでも重なっていけば、HAIKUはよりよい世界を作ることにも貢献できると言えるでしょう。