#37:俳句をユネスコ無形文化遺産に
岐阜県大垣市長 石田 仁
(会員誌「HI」No.169掲載)
松尾芭蕉が「野ざらし紀行」で大垣を訪れたのは貞享元年(1684年)のことでした。その後、「奥の細道」の旅の終着点として再び大垣の地を踏んだ芭蕉は、この地で旅の疲れを癒し、多くの俳人たちとの交流を深めました。
大垣を旅立つその日、芭蕉は、船町港にて「蛤のふたみに別れ行く秋ぞ」と詠みました。この句には、見送りの人々との別れのつらさと、二見への旅立ちの意が込められており、大垣との別れは芭蕉にとって特別なものであって、当地に対する深い愛着を感じずにはおれません。
大垣と芭蕉の縁は深く、地元の俳人たちと交流を重ね、句会を開くなど活発な俳諧活動を行いました。大垣は芭蕉にとって単なる旅の終点ではなく、俳諧の心を共有できる文化的な拠点でもあったのです。
改めて大垣市は、岐阜県西部に位置し、水の都として知られる豊かな自然と歴史文化が息づくまちです。木曽三川の恵みを受けた肥沃な土地と豊富な地下水により、農業のみならず製造業や情報産業都市としても発展して参りました。現在市内には、奥の細道むすびの地記念館や大垣城、水門川の他、芭蕉ゆかりの史跡も点在し、多くの観光客をお迎えしております。
そうした中、大垣市では、芭蕉翁の精神を受け継ぎ、俳句文化の振興にも力を入れています。毎年芭蕉翁の命日にあたる10月12日前後に開催される「芭蕉蛤塚忌全国俳句大会」は、全国から多くの俳人が参加する伝統ある大会であり、芭蕉翁の遺徳を偲びながら、現代俳句の発展に寄与しています。
また、市内の小中学校でも「俳句教育」を推進しており、20年来、夏井いつき先生をお迎えし、児童に俳句の楽しさを伝える「学校句会ライブ」や、小中学校の先生に俳句の指導力向上を目的とした「教員向け句会ライブ」を行っております。これらは、初心者から熟練者まで、世代を超えて俳句の魅力に触れる貴重な機会となっています。
ユネスコ無形文化遺産への登録を目指す「俳句」は、季節感や簡潔な表現の中に深い情感を込める、日本独自の文化です。
我々、大垣市は、芭蕉翁が愛した水と緑の風景をしっかりと今に伝え、「奥の細道むすびの地」としての誇りを持ち、その足跡を大切に守りながら、俳句文化の継承と発展に努めるとともに、市民の皆様と一丸となって、俳句を通じた文化交流の輪を広げ、芭蕉翁の心を未来へつないでいきたいと思います。


