#36:俳句の魅力をより多くの人々に
三重県伊賀市長 稲森稔尚
(会員誌「HI」No.168掲載)
三重県北西部に位置する伊賀市は、東西交通の要所であったことから、古代から多くの人や物が行き交い、さまざまな文化が伝えられ、育まれてきました。そうした環境にあって生まれたのが俳聖 松尾芭蕉です。市民は親しみを込めて「芭蕉さん」と呼んでいます。
市内には、芭蕉さんが幼少期を過ごした史跡芭蕉翁生家や松尾氏ゆかりの萬壽寺、門人・友人と訪ねた新大仏寺や兼好塚など、芭蕉さんにゆかりの場所が数多く残っています。また、芭蕉さんの俳句を刻んだ句碑も80基以上点在しています。
このほかにも、伊賀市では色々なところで芭蕉さんに出会えます。例えば、市内を走る伊賀鉄道では、毎年夏に車内に伊賀焼の風鈴を飾った「伊賀焼風鈴列車」を運行していますが、その風鈴の舌ぜつには、芭蕉さんの俳句が書かれています。また、和菓子や日本酒、珈琲、農作物など、芭蕉さんや芭蕉さんの俳句にちなんだ名前がつけられている商品もたくさんあります。
もちろん俳句にも幼い頃から親しんでいます。伊賀市では毎年、芭蕉さんの命日にあたる10月12日に芭蕉祭を開催しています。この芭蕉祭では、「芭蕉翁献詠俳句」として、芭蕉翁に捧げるための俳句を世界中から募集し、特選・入選作品は『芭蕉翁献詠句集』に掲載されるほか、芭蕉祭の当日は、芭蕉翁を顕彰するため上野公園内に建てられた俳聖殿の前で表彰しています。伊賀市のこどもたちには、保育園・幼稚園の頃から、「芭蕉翁献詠俳句」に参加してもらっています。「児童・生徒の部」の締め切りが夏休み明けということもあり、句集には毎年、楽しそうな夏休みの思い出を詠んだ句がたくさんならび、ほほえましい気持ちになります。
当然、最初のうちはこどもがつぶやいた内容を、まわりの大人が5 ・7 ・5 に直すという感じになりますが、小学生になると自分で文字が書けるようになり、知っている言葉も増え、5 ・7 ・5 のリズムも心地よく感じられるようになります。この俳句作りは、語彙力や表現力、観察力、想像力、感性や自然への関心など、こどもたちの様々な力を育ててくれています。また、生活そのものを豊かにしてくれる効果もあります。
このような素晴らしい文芸を、世界中のより多くの人に知ってもらい、親しんでもらえたら、芭蕉さんのふるさと伊賀市として、これほど幸せなことはありません。ぜひとも俳句のユネスコの無形文化遺産登録を実現できるよう、今後とも尽力して参ります。


