俳句ユネスコ無形文化遺産登録推進協議会

各自治体首長のエッセイ

#39:下町のぬくもりと俳句の心──俳句のまちあらかわ

東京都荒川区長 滝口 学
(会員誌「HI」No.171掲載)

 東京都の東側に位置する荒川区は、都心に近く、下町情緒あふれる街並みと多様な文化が共存するまちです。隅田川沿いの河川敷や公園は、区民の憩いの場であると同時に、四季折々の自然の美を感じられる場所でもあります。また、都電荒川線や歴史ある商店街、地域に根ざした祭りなど、日常の中に昔ながらの風景や暮らしが息づいており、訪れる人々に「下町ならではの温かさ」を届けています。
 荒川区は、歴史的にも俳句との縁が深い地域です。江戸時代、松尾芭蕉は隅田川沿いの風景を詠み、その足跡は現在も区内の各所に残されています。中でも素盞雄神社は、芭蕉の『おくのほそ道』の矢立て初めの句である『行く春や鳥啼き魚の目は泪』の句碑がある場所として知られています。また、正岡子規は明治時代、日暮里の地をよく訪れ、当地の風景を題材に俳句や随筆を残しました。さらに、区内には小林一茶や西山宗因など著名な俳人の句碑も数多く残され、歴史的な俳句文化の香りを今に伝えています。こうした伝統を大切にしつつ、荒川区は平成27年3 月に「荒川区俳句のまち」を宣言しました。この宣言は、俳句文化のすそ野を広げることに加え、地域の歴史や文化を活かした活動を通じて世代間交流を促進し、区民一人一人が俳句を楽しむ環境を整えること、さらに区の魅力を広く発信することを目的としています。
 こうした方針に基づき、現在、荒川区では俳句文化の振興に力を入れています。毎年開催される荒川区文化祭では、俳句の展示や発表の機会が設けられ、子どもから高齢者まで幅広い世代が俳句に触れることができます。中高生を対象とした「中高生俳句バトルin あらかわ」などのイベントも行われ、若い世代が自由な発想で俳句に親しむ機会を提供しています。また、区内20か所に設置した投句箱や区公式ホームページで俳句を募集し、優れた作品を公表する取り組みも行っています。
 今後も荒川区は、世代を超えて俳句に親しむ環境づくりに努め、みんなで創る「俳句のまちあらかわ」を推進してまいります。俳句は今や「Haiku」として世界中で親しまれる最短の詩歌であり、荒川区はこの貴重な文化を日本国内に留まらず人類共通の遺産として次世代へ繋ぐべく、俳句のユネスコ無形文化遺産登録のために、協議会の皆様とともに力を尽くしてまいります。