#31:蕪村ゆかりの与謝野町
京都府与謝野町長 山添藤真
(会員誌「HI」No.161掲載)
わが町与謝野町は京都府北部に位置し日本三景・天橋立に臨む人口2万人弱の町です。与謝野鉄幹(寛)の父で令和 5 年に生誕200年を迎えた僧侶歌人・与謝野礼厳の生地である当町には鉄幹・晶子夫妻も一度ならず訪れています。天橋立を横一文字に眺める当町の絶景スポット・大内峠で夫妻は数多くの短歌を詠みました。〈たのしみは大内峠にきはまりぬまろき入江と一すぢの松 寛〉〈たそがれの霧よな巻きそいにしへがわれにのこせる天の橋立晶子〉夫妻は天橋立のほかにも当地でさまざまな風物を味わい、鉄幹は町内の旧家に残る墨蹟を次のような歌に詠んでいます。〈わが蕪村はやく心の楽しめり与謝の屏風のうす墨と白寛〉
蕪村の母親のふるさとと伝えられる当町をはじめとする丹後地方に蕪村は宝暦4年(1754)から約 3 年間滞在し、後に「蕪村の丹後時代」と呼ばれるほど、多くの絵画作品を残しました。鉄幹の歌はこうした屏風のひとつを詠んだものですが、「わが蕪村」という表現には俳句・短歌の垣根を超えた詠み人としての親しみを思わせます。いっぽう俳句では〈丹波の加悦といふ所にて〉の前書とともに次の名句を詠んでいます。〈夏河を越すうれしさよ手に草履 蕪村〉(※丹波は丹後の誤記とされます)小学校の国語の教科書に載るこの句を、当町の子供たちは早くからご当地句として愛誦し、町では地域の俳句実作者を町内すべての小中高等学校に派遣する「俳句の授業」を行っています。また、その成果発表の場として町内小中高生対象の俳句賞「令和の Buson 俳句大賞」を設けて毎年優秀作品を表彰しています。
「令和の Buson 俳句大賞」表彰式は平成24年から実施している公募全国俳句賞「与謝野町蕪村顕彰全国俳句大会」の表彰式と同日・同会場で行われます。未来の蕪村になり得る町内の子供たちを与謝野町の一大俳句イベントの場で広く紹介するとともに、俳句を通じた世代間交流の機会になればと考えております。
地域ゆかりの蕪村の名を関した蕪村顕彰全国俳句大会では独自の試みとして、夏河の句をはじめとして蕪村が前書付きの句を多く残していることにちなみ、一句を添えられた前書ごと選考・表彰する「前書俳句の部」を設けています。時代を超越する俳句の魅力とともに、地域ゆかりの俳人である蕪村について理解を深め、また広く発信していくことを目指しています。
画俳両道の蕪村が絵に描き句に詠んだ与謝野町はすぐれた吟行地でもあります。俳句を愛する多くの皆様のお越しをお待ちしております。