俳句ユネスコ無形文化遺産登録推進協議会

各自治体首長のエッセイ

#34:国際文化住宅都市・芦屋と「HAIKU」

兵庫県芦屋市長 髙島崚輔
(会員誌「HI」No.165掲載)

 「震災に 耐えし芦屋の 松涼し」
 ここは兵庫県芦屋市。市内中心に位置する芦屋公園の石碑に刻まれているのは、稲畑汀子さんの句です。阪神・淡路大震災から、まもなく30年。震災から復興に向かって一歩ずつ進んできた私たちの歩みを、汀子さんの句は見守り続けています。
 芦屋市は、北に六甲山地を背負い、南に大阪湾を望む自然豊かなまちです。日本唯一の「国際文化住宅都市」として、文化を大切にするまちづくりを70年以上にわたり、市民とともに進めてきました。
 芦屋のまちを歩けば、至るところで文化の薫りを感じられます。今でも残る町名「業平町」は、『伊勢物語』の主人公とされる在原業平の名を冠して名付けられました。古くから白砂青松の名勝地「あしや」として知られていた本市が、『伊勢物語』をはじめ様々な歌や物語に登場してきたことを窺い知れます。また、国指定重要文化財の旧山邑家住宅(ヨドコウ迎賓館)は、明治後期から昭和初期にかけて花開いた「阪神間モダニズム」と呼ばれる独自の文化を、今なお私たちに伝えています。
 そんな芦屋市の文化の中でも、俳句は特別な存在です。それは本市が、今年生誕150年を迎える俳人・高浜虚子ゆかりの地だからです。虚子に関する資料を保存・公開する「虚子記念文学館」では、毎月来場者の投句から特選句・入選句が選定され、芦屋の俳句文化を広げ続けています。本市も、文学館主催の虚子生誕記念俳句祭には芦屋市長賞・教育長賞を贈呈し、俳句文化振興の一助を担っています。
 虚子の孫で俳誌「ホトトギス」名誉主宰の稲畑汀子さんは、芦屋川沿いの月若公園の近くで幼少期を過ごされたそうです。そんな月若公園には、稲畑汀子さんと父・高浜年尾さん、そして祖父・高浜虚子さんの親子三代による句が刻まれた石碑が建っています。
 「咲き満ちて こぼるる花も なかりけり」虚子
 「六甲の 端山に遊び 春隣」年尾
 「目に慣れし 花の明るさ つづきをり」汀子
 芦屋川が最も美しい季節は、満開の桜が咲き誇る春だと思います。先人たちも同じ風景を楽しんだのだろうかと、十七音を通じて思いを馳せることができるのも、俳句の素晴らしさだと実感しています。
 日本発で世界共通の文化として親しまれるHAIKU の振興に携われることは、国際文化住宅都市たる本市にとっても誇りです。芦屋ゆかりの俳句に見守られながら、「HAIKU」の更なる発展に向けて、世界中の俳句愛好家の皆さまとともに私たちも歩んでいきます。