俳句ユネスコ無形文化遺産登録推進協議会

各自治体首長のエッセイ

#21:俳人小林一茶のふるさと信州信濃町

長野県信濃町長 横川正知
(会員誌「HI」No.152掲載)

長野県の北端に位置し、新潟県と境を接する当信濃町は、信越五岳と称される妙高山、黒姫山、戸隠山、飯綱山、斑尾山の名峰に囲まれ、風光明媚な避暑地として、またナウマンゾウの化石発掘地として知られる野尻湖を有する緑豊かな里山の町です。

町の中央を、江戸時代の初期に成立し、文化・信仰・物流の道として賑わった北国街道が縦貫しており、その宿場町として栄えたのが、俳人小林一茶のふるさとである柏原です。一茶は柏原の農家の長男として生まれ、江戸へ出て俳諧師として大成したのち帰郷して晩年を過ごしました。

一茶はふるさとを「下々の下国の信濃もしなの、おくしなのの片すみ」(俳諧寺記)と表現し、また、「是がまあつひの栖か雪五尺」とその雪深さを詠みました。いずれもふるさとへの愛着の裏返しを一茶流のユーモアで表現したものですが、当地はその表現どおりの寒冷、豪雪地帯でもあります。一茶は斯様に美しくも厳しい風土に育まれた俳人でした。

明治時代以降、一茶をふるさとの誇りとして、当地の先人たちは顕彰を続けてきました。一茶が生涯を閉じた小さな土蔵は、彼らの活動により昭和32年に「小林一茶旧宅」として国の史跡に指定され、保存のための修復を受けて現在もその素朴な佇まいを留めています。

また、一茶の作品を中心とする遺物を保存、公開するため昭和35年に一茶記念館が開館しました。当初は有志による財団が運営を行い、その後町立施設となって現在に至ります。

一方で、俳句文化の普及・継承にも古くから取り組んできました。昭和26年から始まった「一茶忌全国俳句大会」は、多数の著名俳人の先生方を選者にお迎えし、伝統ある大会として現在も連綿と続いております。昨年第20回を迎えた「小林一茶全国小中学生俳句大会」には、全国から一万句を超える応募をいただいております。

親しみやすい言葉で詠まれた一茶の俳句は、近代以降の我が国の人々の心を捉え、芭蕉・蕪村とともに江戸期の三大俳人とまで称されるようになりました。今、グローバル化が急速に進む中で、一茶の俳句もまた、様々な国で翻訳され愛されています。そこに至るには、ふるさとの先人たちの尽力も大きな力となったことと確信しております。

協議会の活動が実を結び、“HAIKU” とともに一茶の名がより一層世界に向けて広がっていくよう、当町も微力ながら活動の推進を皆様と共に進めていく所存でございます。